東京高等裁判所 平成11年(行ケ)151号 判決 2000年12月28日
原告
文明堂商事株式会社
代表者代表取締役
【A】
訴訟代理人弁護士
岩原武司
同
清水肇
同
津田和彦
同
大山健児
同
星千絵
同
村西大作
訴訟代理人弁理士
後田春紀
被告
シュアラスター株式会社
代表者代表取締役
【B】
訴訟代理人弁護士
安田有三
主文
特許庁が平成10年審判第35020号事件について平成11年4月2日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 原告
主文と同旨
2 被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
第2当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
被告は、商品及び役務の区分第3類の「せっけん類、香料類、さび除去剤、つや出し剤」を指定商品とする、別紙1審決書の理由の写し添付の別紙のとおりの構成より成る登録第3335929号商標(平成5年10月13日登録出願、平成9年8月1日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
原告は、平成10年1月12日、本件商標は商標法4条1項10号又は同19号に該当するとして、その登録を「つや出し剤」につき無効とすることについて審判を請求し、特許庁は、これを平成10年審判第35020号事件として審理した結果、平成11年4月2日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同月28日原告にその謄本を送達した。
2 審決の理由
別紙1審決書の理由の写しのとおり、本件商標は、本件商標と後記引用商標とが、外観、称呼及び観念上明らかに相違する商標であるから、商標法4条1項10号に該当せず、また、引用商標を盗用し、不正の目的をもって使用するものともいえないから、同法4条1項19号にも該当せず、その登録を無効とすることはできないと認定・判断した。
3 引用商標
原告が本件商標につき商標法4条1項10号該当性又は同19号該当性があるとの主張の根拠として引用する商標は、別紙2のAの包装缶に付された商標(以下「引用A商標」という。第1図を商標を付した包装缶の正面図とした場合、第2図は背面図、第3図は左側面図、第4図は右側面図である。以下も同様である。)、別紙2のBの包装缶に付された商標(以下、「引用B商標」という。)である(以下、引用A商標、引用B商標を総称するときは「引用各商標」という。)。
なお、原告は、審判段階では、別紙2のCの包装缶に付された商標(以下「C商標」という。)をも引用商標としていたが、これについては、本訴において引用商標として主張していない。
第3原告主張の審決取消事由の要点
審決は、本件商標と引用各商標との類否判断を誤り(取消事由1)、本件商標の使用における被告の不正目的の有無の判断を誤ったものであって(取消事由2)、違法であるから取り消されるべきである。
1 引用各商標
原告は、平成4年から平成6年5月までの間、引用B商標を、原告の商品である「自動車用つや出し剤」の包装缶に付して使用していた。また、原告は、平成6年6月から、引用A商標を、上記原告商品の包装缶に付して使用している。
2 取消事由1(類否判断の誤り)
(1) 審決は、本件商標と引用各商標とが、模様部分において、「ストライプ模様内に五角形状の図形を描いた模様よりなる」という点で同一性があると認めながら、全体としては、「色彩の有無、「SUR LUSTER」と「IMPERIAL」、「SL WAX」等の各欧文字及び星状の図形の有無等著しい差異があ」るとする。
しかしながら、「色彩の有無」の点に関しては、商標法70条1項の規定が本件にも適用されるというべきであり、これにより、本件商標の模様部分の色彩を引用各商標と同一のものとすれば、両者は全く同一の模様となるから、両者はその模様部分については同一の標章であるというべきであって、審決のように、これを「著しい差異」とみることは許されない。
文字の相違や星状の図形の有無についても、簡易・迅速を旨とする商取引においては、需要者は、特に注意を引きやすい部分を抽出して記憶するものであるから、本件商標中、特に白色と黒色の二色の模様部分を抽出して「ストライプ模様」と認識する場合もあるということができる。本件商標の場合、図形部分に比して文字部分の占める面積が小さく、しかも文字部分の文字の中には図案化されているものもあることを考慮すると、このことは、更に強くいい得るところである。この場合、引用各商標の方は、「赤・白のストライプ模様」であるのに対し、本件商標の方は「白・黒のストライプ模様」であるとの違いはあるものの、色彩を同一にすれば、両者は全く同一の模様となる関係にあるので、上述のとおり、本件商標と引用各商標の模様部分とは同一であるというべきである。このようにして、需要者は、文字の相違や星状の図形の有無に関係なく、その模様部分を抽出して両者の同一性を認識できるのである。
(2) 審決は、原告の商品が「インペリアル」と称呼されているとする。
しかしながら、引用各商標の模様部分は、米国製であることをより強調するため、米国国旗を思い浮かばせるように、赤と白のストライプにし、青色の野球のホームベースをあしらったものとしてあるのである。そして、このような赤・白・青の特に目立つようにした図形を有する包装缶は、「自動車用つや出し剤」では業界で初めてであったから、引用各商標は、「IMPERIAL」の文字もさることながら、模様部分をも強烈に需要者の脳裏に焼き付かせ、その結果、特に「赤・白のストライプ模様」という観念をも生じさせて、需要者に認識されるという二面性を有している。したがって、引用各商標は、その文字部分により「インペリアル」という称呼を生ずる場合もあるものの、それと同時に、その色彩の強烈さから、需要者が「赤・白のしま模様」と観念し、認識する場合もあるというべきである。
審決は、ほとんど文字部分のみをとらえて類否判断をしており、図形部分を考慮していない点において、不十分である。
(3) したがって、本件商標が引用各商標と類似しないとした審決は、誤っている。
3 取消事由2(不正使用目的の有無の判断の誤り)
審決は、本件商標は、引用各商標を盗用し、不正の目的をもって使用するともいい得ないとした。
しかしながら、本件は、直接の関係のない同業者が既存の商標と類似した商標を登録したという、通常みられる類型の事件ではない。被告は、原告と30年以上にわたって取引関係にあった者なのであり、引用各商標は、原告が永年使用してきた商標であることを知悉しながら、あえて、これに似せた本件商標につき登録の出願をしたことが明らかである。
したがって、被告の「不正の目的」の欠如を理由に、本件商標は商標法4条1項19号に該当しない、とした審決は誤っている。
第4被告の反論の要点
審決の認定・判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(類否判断の誤り)について
(1) 審決は、引用各商標は、「赤色と白色のストライプ模様の中に、青色の大小二つずつの五角形状の図形を組合せた模様若しくは、黒色と白色のストライプ模様と黒色の五角形状の図形を組合せた模様と図案化した「SUR LUSTER」と「IMPERIAL」、「SL WAX」等の各欧文字及び星状の図形を組合せてなるもの」であるとしたうえで、「インペリアル」の文字が表されているところから、それらの付された商品が、取引者・需要者間で、「インペリアル」と称されているものと認められるとした。これは、引用各商標から、「インペリアル」との称呼が得られ、また、「帝国」あるいは「威厳」などの観念が生ずると認定したものであり、そこには、何の問題もない。
(2) そのうえで、審決は、本件商標と引用各商標とは、ともにストライプ模様内に五角形状の図形を描いた模様よりなるものの、両者間には、「色彩の有無、「SUR LUSTER」と「IMRERIAL」、「SL WAX」等の各欧文字及び星状の図形の有無等著しい差異があり、両者は、外観、称呼及び観念上明らかに相違する商標と判断するのが相当である」としたものであって、その認定・判断は正当である。
2 取消事由2(不正使用目的の有無の判断の誤り)
争う。
第5当裁判所の判断
1 引用各商標について
証拠(甲第5、第6号証)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成4年から平成6年5月ころまでの間、引用B商標を、原告の商品である「自動車用つや出し剤」の包装缶に付して使用していたこと、原告は、平成6年6月ころから、引用A商標を、上記原告商品の包装缶に付して使用してきていることが認められる。
上記認定事実によれば、本件商標登録出願時である平成5年10月13日には、原告により引用B商標が用いられていたこと、本件商標登録査定時(登録時である平成9年8月1日の少し前)には、原告により引用A商標が用いられていたことが認められる。
2 取消事由1(類否判断の誤り)について
(1) 本件商標は、白色と黒色の斜めのしま(ストライプ)模様に大小二つずつの五角形の図形(野球のホームベース状の図形)とを組み合わせた模様と、上記大きい五角形の図形中に白抜きで図案化されて表示された「SUR LUSTER」の文字と、図案化されて白抜きで表示された「SL」の文字とを上下二段にわたって並記したものの結合商標である。
(2) 引用A商標は、包装缶の外周に、赤色と白色の斜めのしま模様に、青色の大小二つずつの五角形の図形(野球のホームベース状の図形)とを組み合わせた模様と、上記大きい五角形の図形中に黄色で大きく「IMPERIAL」の文字と、この文字の上方に描かれた星状の図形(以下「星マーク」という。)と、下方に白抜きで表示された「BMD WAX」の文字と、上記青色の大小二つずつの五角形の図形中のその余の部分に記載された小さな文字を配した結合商標である。
また、引用B商標は、大きい五画形の図形中の「IMPERIAL」の文字の下方の白抜きで表示された文字が「SL WAX」である以外は、引用A商標と同じである。
(3) 証拠(甲第2号証の1ないし269、甲第3号証の1ないし284、第4ないし第6号証)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和46年10月ころから平成3年ころまでは、C商標(ただし、昭和60年より前は、星マークのないもの。以下、星マークのないものを含めるときは「C商標等」という。)を上記原告商品の包装缶に付して使用していたこと、C商標は、「IMPERIAL」の文字の下方に白抜きで表示された文字が図案化された「SUR LUSTER」である以外には、小さな文字に関する相違を除き、引用各商標と同じであること、C商標等に表示された図案化された「SUR LUSTER」の文字は、本件商標に表示された図案化された「SUR LUSTER」の文字の形状とほぼ同一であること、C商標等に「SUR LUSTER」の文字が用いられていたのは、原告が、昭和43年ころから、米国シュアラスター マニュファクチュアリング インク社が製造した自動車用つや出し剤を、同社又はその販売権を有する者との契約に基づき輸入し、これをC商標等を付した包装缶に充填し、販売店である被告を通じて日本国内で販売していたためであることが認められる。
(4) 上記(1)ないし(3)の事実によれば、本件商標は、引用各商標とは、斜めのしま模様に、大小二つずつの五角形の図形(野球のホームベース状の図形)とを組み合わせた模様部分において共通していることが明らかである。審決は、このような共通点があることを認めながら、本件商標と引用各商標とは色彩の有無、欧文字の違い及び星状の図形の有無等の点で著しい差異があるから、両者は、外観、称呼及び観念上明らかに相違するとしている。
しかしながら、前記認定によれば、原告は、少なくとも昭和46年10月ころから平成3年ころまでの間、「IMPERIAL」の文字の下方に白抜きで表示された文字が「SUR LUSTER」であるか、「SL WAX」あるいは「BMD WAX」であるかに差があるだけで、その他の赤色と白色の斜めのしま模様の図形部分及び星マーク(ただし、昭和60年以前のものには付いていない。)が引用各商標と同じであるC商標等を包装缶に付して使用していたものであり、この事実によれば、赤色と白色の斜めのしま模様を用いた商標は、「シュアラスターの自動車用つや出し剤」の商標として需要者に周知になっていた可能性が大きいものと認められる。また、引用B商標の「SL WAX」の「SL」は、「SUR LUSTER」の頭文字であるとみることができるから、当該文字部分以外はC商標と同一である引用B商標も、C商標等の周知性を前提とすれば、「シュアラスターの自動車用つや出し剤」の商標として需要者に周知になっていたものと認められよう。そして、C商標等及び引用B商標の周知性を前提とすると、引用A商標も、「IMPERIAL」の文字の下方に白抜きで表示された文字部分を除き、引用B商標及びC商標と同一であることから、需要者に従前の「シュアラスターの自動車用つや出し剤」と同じ商品の商標であると把握され、認識されることがあるものと認められることになるであろう。
他方、本件商標が、その指定商品に含まれる自動車用つや出し剤の包装缶に用いられた場合に、「シュアラスターの自動車用つや出し剤」と把握され、認識されることは明らかである。
このようにみてくると、C商標等の周知性の存在という上記前提の下では、色彩の有無、欧文字の違い及び星状の図形の有無等の点の差異を理由に、本件商標と引用各商標とを、外観、称呼及び観念において相違するとした審決は誤りであって、本件商標と引用各商標とは、少なくとも、外観において類似しており、本件商標を、自動車用つや出し剤の包装缶に付して使用するときは、需要者に商品の出所混同を生じさせるおそれがあることになるものというべきであり、本件商標と引用各商標との間には、商標法4条1項10号にいう類似性が認められるというべきである。したがって、原告による引用各商標及びC商標等の使用の実態とそれによる引用各商標の周知性の獲得につき十分な検討を加えることなく、引用各商標と本件商標に関する取引の実態を離れて外形的にのみ検討して、両商標の類似性を否定した審決には、少なくとも結果的には、なすべき審理、判断をしないまま結論を導いた誤りがあるものというべきである。
本件においては、原告による引用各商標及びC商標等の使用の実態と、それによる引用各商標の周知性獲得につき、なすべき審理、判断をしたうえ、その結果、本件商標と引用各商標との間に類似性が認められることになった場合には、それを前提としたうえで、前記認定のとおり、原告がシュアラスター マニュファクチュアリング インク社が製造した自動車用つや出し剤を、同社あるいはその販売権を有する者から輸入して、C商標等を用いた包装缶に充填して販売していたこと、被告が、審判において、上記つや出し剤につき、販売権を有する会社から、同社の日本における営業権一切を譲り受けた旨主張していること等の事実をも踏まえ、引用各商標が果たして被告にとって「他人」の商標といえるかどうか、の点についての検討などが行われるべきである。
第6よって、原告の請求に理由があることは、その余の点について判断するまでもなく明らかであるから、審決を取り消すこととし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 宍戸充 裁判官 阿部正幸)